漆器はかくして作られる   その弐 虫喰塗箸

4月15日午前8時すぎ、国分漆工房にお邪魔して国分幸一さんにお話をうかがってきました。

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国分幸一さん。会津蒔絵界の重鎮・照井久良人さんに師事。蒔絵の真髄を学ぶ。独立後は蒔絵だけにとどまることなく、古い鎧・兜や漆器のレストアなど幅広い分野で活躍。箸の製作もその一環。国分さん曰く、「蒔絵師は表現したいモノを表現するために様々な塗り・加飾法を駆使します。新しいテクニックにも抵抗無く取り組めるのが蒔絵師の強みです」。趣味はアウトドアから戦前の三球スーパーのラジオのレストアまで多彩。「人生、無駄なことなんてないですよ」(国分さん)が口癖。

4月9日に取材した虫喰の箸が今日から研ぎ出しの工程に入ります。果たしてどんな虫喰模様が出てくるのか、ジツは前回国分さんからある心算を聞いていたので期待に胸を膨らませながら拙宅から10分ほどの国分さんの工房までドライブ。あいさつもそこそこにお話をうかがいます。

銀蒔きが終了した箸は一晩湿し風呂で乾燥させると木地呂漆を刷毛塗りするのですがその前に一仕事。銀についたホコリを取るためにウサギ刷毛の先にほんの少し漆をつけて箸をさっさっとなでます。

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漆は吸着剤の役目を果たす。「特にどのウルシを使うというわけではない。直前の作業で使ったウルシで十分」と国分さん。今回は黒漆で。刷毛の穂先が黒く見えるのがお分かりだろうか。

 

 

 

ホコリをとったら木地呂漆を刷毛塗り。3日ほど自作のコンピュータ制御機能付き回転風呂で乾燥(いつかご紹介します)。乾燥が中途半端だと研ぎ出し時に半乾きの木地呂漆が「絡んで大変」(国分さん)なので完全に乾燥させることが大切。

030_R写真が木地呂漆が完全硬化した後の箸の表面。飴色の木地呂漆の塗面の奥から所々かすかに白く透けて見えるのが9日に蒔いた本銀。

じつは当方の都合上約一週間取材ができなかったためホコリ取りの写真は9日に撮影したもの。木地呂漆を塗る瞬間は撮影できなかった。ホントに残念。

 

研ぎ出し開始。スポンジで箸を濡らして600番の耐水ペーパーを木片に巻きつけて水研ぎします(粗砥ぎ)。1ストローク5~6センチほどに手早くリズミカルに箸のアタマから先端にむかって研いでいくと緑色の研ぎ汁(?)が出てきます。結構ジャリジャリと音がするので仕掛けのアワビ貝が取れでもしたかと心配になりますが「タライと水に共鳴して音が大きくなっているだけ。これはあくまで600番の音。力を入れすぎるとキズが大きくなってしまうので軽く研ぐ」(国分さん)。緑色の研ぎ汁まみれの箸に水をかけてぬぐうと虫喰模様がでてきます。

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研磨中の女箸。研ぎ面が広くて平滑な場合には工業用砥石を使用するが今回は箸なので耐水ペーパーを当て木に巻いて研磨。「砥石だと柔らかいので箸の角で微妙に変形してかえって塗面を傷つけてしまう。耐水ペーパー+当て木がベスト」と国分さん。

 

 

 

 

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上の写真の女箸の研ぎ汁をぬぐったところ。木地呂漆の茶褐色→本銀→緑→黄色→朱(男箸の場合は黒)、シボ漆上に蒔いたアワビ貝とがいっせいに現れる。こうなるとは頭では判ってはいたが初めて間近でみて正直ビックリした。

 

 

 

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写真右が粗砥ぎ前の木地呂漆が乗っている状態。左が粗砥ぎ後の女箸。上の写真では水がついているのでツヤツヤしているが水気をとるとツヤはゼロに。百均のツメ磨き(4段階)に例えるとやっと第一段階を終えたツメの状態。お世辞にもキレイとはいえない。ただし箸の柄は「この段階でほぼ決まる」(国分さん)。

 

 

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「上手くいきましたね」と国分さん。冒頭の国分さんの心算とはこの点。上が半年前に国分さんに製作してもらった箸。下が今回のモノ。緑の部分の面積が若干広くなったのがお分かりだろうか。今回はシボ漆の山を多めにつくって国分さんの理想のバランスにより近づけることに成功。※写真は完成後あいづやにて撮影。

 

 

この後は午後から1000番でもう一度研磨するのですが(仕上げ研ぎ)、「見た目もほとんど変化はない」(国分さん)とのことなので本日の取材はここまで。午後は伝統工芸士の吉井さんの工房にお邪魔をして虫喰のぐい呑み等の製作状況を取材します(後日本欄にて掲載します)。明日の朝から胴摺りと摺り漆の工程が始まります。どうぞお楽しみに!